K-POPアイドルたちが世間に対して持つ影響力はかなり大きい。音楽シーン以外にも、ファッションや食べ物、ライフスタイル等、数多くの分野にアイドルの影響が及んでいる。時にそれは、法律をも変えることがあるのをご存じだろうか。
ここ数年間、韓国のいくつかの法律がK-POPアイドルの影響で大きな変化を遂げた。本記事では、韓国の法律に影響を与えた4人のアイドルとその背景について解説する。
元f(x) ソルリ
2019年、SMエンターテインメントのガールズグループ・f(x)の元メンバー ソルリ(チェ・ジンリ)がわずか25歳でこの世を去った。
彼女は生前、自身の感情や価値観をはっきりと表明する素直な態度で度々注目を集めていた。しかし、それが原因でオンラインでの非難と攻撃の対象となってしまい、日々寄せられる誹謗中傷に悩まされるように。重度のうつ病に苦しんでいたとも言われている。
彼女の早すぎる死を受け、世間ではソルリの死を無駄にはしない、とネットでの誹謗中傷に関する議論が巻き起こった。韓国大統領府のウェブサイトには、ネットいじめに対する厳罰化、コメント投稿やアカウント作成時の実名制の強化を求める7件の請願書が掲載された。世論を受け、韓国の大手ポータルサイトでは芸能人たちを誹謗中傷から守るため、芸能記事のコメント欄が閉鎖されるようになった。
その後、韓国の政界もこの問題に注目し始め、インターネットユーザーがオンラインでコメントを投稿する際はID全体とIPアドレスを公開すること、当事者以外の第三者も誹謗中傷コメントの削除要求を可能にすることを提案した「ソルリ法」こと「情報通信網法改正案」が発議された。また、情報通信ネットワーク利用促進及び情報保護法の一部を改正する法律案も提出され、情報通信サービス事業者に対しプラットフォームからの誹謗中傷コメントの削除義務が課せられるようになった。
しかし、残念ながら「ソルリ法」は本会議を通過することができず、最終的に審議から外されてしまった。
KARA ハラ
ソルリの大親友として知られていたKARAのハラ(ク・ハラ)も、2019年に28歳でこの世を去っている。彼女が亡くなったのは、ソルリの死去からわずか1か月後のことだった。
ハラの死去後、これまで一切連絡のなかった実の母親がとつじょ登場し、ハラの遺産相続を要求。ハラの実母は、ハラが9歳の時に家を出て20年近く連絡が途絶えていたという。ここで国民の注目を集めた韓国における重要な課題が、「相続法」だった。
韓国の法律では、親は亡くなった子どもを養育していない場合でも、その財産の相続を受けられる権利があった。ハラの実弟であるク・ホイン氏はこの事態を受け、母親を相手に訴訟を起こすとともに、直系尊属・直系卑属に対する保護、扶養の義務を怠った者に対し故人の財産を相続できないようにする「ク・ハラ法」の立法を請願した。請願書はわずか17日間で10万人以上の署名を集め、2020年12月にようやく可決された。
しかし、この法律が可決される前に母親への訴訟の判決が下されたため、「ク・ハラ法」はハラの遺産相続には適用されなかった。しかしホイン氏はこの法律を妹への最後の贈り物と考えている、と述べ国民の涙を誘った。
BTS(防弾少年団)
韓国の法律では、男性は28歳までに18か月の兵役に就くことが義務付けられている。しかし2020年12月、国会は兵役義務に関する法律改正案を可決。K-POPアーティストは特定の基準を満たせば兵役を30歳まで延期できる権利を手に入れた。これはBTSの世界的な成功と活躍を受け改正された法律で、現地では「BTS法」とも呼ばれている。
これによって最年長メンバーで改正時28歳だったジンの兵役が延期され、BTSはそこから2年間グループ活動を行うことができた。「BTS法」が適応されるための条件は、大衆文化芸術分野での活躍が認められること、とされている。改正以来、この法律が適応されたのは今のところBTSのみだ。
イ・スンギ
2022年末、歌手兼俳優のイ・スンギと所属事務所Hookエンターテインメントの間に精算紛争が勃発。イ・スンギは18年もの間、所属事務所から音源収益を一度も支払われず、加えて暴言・暴行・ガスライティングを受ける等の不当な待遇を受けていたことが明らかになった。
これを受け韓国では、「第2のイ・スンギ」の発生を防ぐべく、芸能/芸術分野で働く人々の権利について定められた「イ・スンギ事態防止法」こと大衆文化芸術産業発展法の改定案が発議され、4月に議決した。
改定案では、芸能事務所が所属アーティストへの会計の内訳と精算関連事項を、最低でも年に1回は提供することが義務付けられたことに加え、児童青少年大衆文化芸術人を保護するための条項も大幅に追加された。児童青少年大衆文化芸術人とは、主に未成年で芸能活動に従事する者を指し、IVE イソやNewJeans ヘイン、LE SSERAFIM ウンチェ等、多くの第4世代アイドルがこれに当てはまる。低年齢化が進むK-POP界で若いアイドルたちを守るため、労働時間の上限の引き下げ、学校の欠席や中退などの学習権侵害行為の禁止、健康面にリスクをもたらす過度な容貌管理の強要禁止、暴言禁止などの項目が新設された。